祖母から電話があった。
ハガキにいつでも電話ちょうだいね。と書いたからだ。 私には4人の祖父母がいたけれど、 今も元気でいてくれるのは、母方の一人の祖母だけ。 私はおばあちゃん子だったわけではなく、 どちらかと言うと、明るく活発な住職のおじいちゃん子だった。 祖父の目に入れても痛くない可愛がりよう。と違って、 祖母はお寺を取り仕切り、凛とした厳しい佇まいで、 孫に優しくないわけではないけれど、しっかり躾もされた記憶もある。 なので、祖父の存命中はあまり近寄らなかったし、 特に心に残る話をした記憶もあまりない。 記憶といえば、足の傷がずっと癒えなかった祖母が、 毎晩パンパンにはれあがった足を、座り込んで丁寧に治療していた姿くらいだ。 そんな祖母と、気持ちが強く通じるようになったのは、 祖父の看病の時からかもしれない。 病気が進行し、だだっ子のようになっていく祖父を、 泣き言も愚痴ひとつ言わずに、あやし、励まし、 十分体の動かない自分でできる事を、精一杯、淡々とするのを見てからだ。 自分の足がよく動き、人の世話にならず、なんでも出来たなら・・・ とどんなにか思ったはずだ。 それがよくわかったから、私は祖母の足になろう。と思って、 重いものを運んだり、遠いものを取ってあげたり、 そして、祖母に買ってきて欲しいものをいつも聞くようになった。 迷惑を皆にかけたくないと思っているから、 滅多に欲しいものを言わずにすます祖母も、 以来、私には言いやすいらしい。いろいろ注文してくれる。 そのことが、私はとても嬉しい。 わたし『なんか欲しいものある?持っていくか送るかするけど。。。』 祖母『う~ん、何にもないけど、 ほら、なんやら、流行作家の、ほれ、あれが読みたいなぁ。』 『んん?ほれ、あれじゃわからんよ。』 『ん~、なんやら韓国かどこかで大人気のあるやろ?』 『おばあちゃん、それは韓国でなく中国じゃないの? NHKで見たニュースじゃない?わたしも見たよ。村上春樹でしょ?』 『ふん、それやわ。こうといて。 おばあちゃん、前、その人の一回は読んだけどな。』 『へえ!読んだん?ノルウェイの森?どうだった?面白かった?』 『うん、どうやったかいなぁ。よかったような気するで・・・ そうそう、その大人気の流行作家のこうといて。読んでみたいわ。』 祖母、86歳です。 たえず新しい世界に興味を持ち、知ろうとする姿勢に心から頭が下がります。 体力も足腰もままならないので、外出はほとんど出来ないし、 家族以外と話をする機会も今ではぐっと少ないだろうと思います。 それでもいま毎日、心ほがらかに保てているのは、 いまなお前を向いて生きているという事。 そして、毎日自分の理想のあり方を求め続けている、 祖母の大変な努力の賜物だと思います。 地味な、でも確かな努力をし続けている祖母は、 わたしの尊敬する女性、ナンバーワンです。 村上春樹にどんな世界を読むんだろう。 すごく、興味津々。早く買って送ってあげようっと♪ スポンサーサイト
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